「フレン!」

正午よりちょっと前。幸福の市場での買い物を終え帰路に着こうとしたら、見慣れた後ろ姿を見つけたので声を上げてみた。 振り返ればやはりそこには見慣れた顔。

!珍しいね、この時間に市民街にいるなんて」
「はっはっは!今日はなんと休みなのだよ!フレンは巡回?」

少々驚いた顔をした私の友人フレン・シーフォ。エリート街道まっしぐらの騎士団所属の青年だ。
巡回かと問えば肯定として頷かれ、これから城に戻る予定な事も教えてくれた。
それを聞いて少々ふざけてお疲れ様ですフレン殿、と敬礼してみる。そうしたらちょっと苦笑された。

「あ、そういや今度巡礼があるんだって?フレン小隊長着実に実績詰んでるねぇ」

さっき市場で買った林檎を手渡し、私自身も林檎を齧る。
フレンもありがとうと一口齧り私の問いに答えようと口を開こうとして、そして固まった。

「……何でが知っているんだい」
「……………あ」

しくった、と思ったときにはフレンはジト目でこちらを見ている現実。

「いや…ほら、あれだよ、ほら……」
「……」
「……………ごめんなさい、フェリス奥様からちょーっとこう…」

『フレン君てば今度巡礼に行くらしいのよー。フレン隊、なんて隊が出来るのも近いかしらねー』…なんて言われてたから…つい…。
素直に白状すれば、彼はちょっと困ったようにため息を吐いた。

…何度も言うけど、君は騎士団の人間じゃないんだから。部外秘な情報は極力口外しないようにしてほしいんだけど…」
「う…」

全くもってその通りである。
いやでもこううっかり言うのは騎士団であるフレン相手だからで…、
とよく分からないジェスチャーと共に弁明すればもう一度ため息を吐かれた。ひどい。
このままだと間違いなく小言タイムに突入する気がする。それだけは避けなければ。
私おなかすいた。食欲>フレンな辺りは全力でこの際スルーするとしてだ。

「で、でも本当すごいじゃない!何かこう…あ、」

何か誤魔化せるものはないか、と考えていたところで、ふと先程市場で買ったものを思い出した。
買い物袋の中から慌ててそれを取り出す。

「これ!」
「…?ペンダント?」

ちょっとデザインが気に入ったのと、お守りとして売りに出されていたという理由で購入したペンダント。
私用に買ったものだという事実は全力で伏せておいて、だ。

「巡礼っていうくらいだから色んな街に行くんでしょう?これお守りなんだって、だからフレンにあげるよ!」

無事に帰ってこれますように、って意味合いも込めて、と押し付けるように彼の手に握らせる。
フレンは改めてそのペンダントを眺めて、そして一言。

「…これで誤魔化そうとしてるよね」

ばれていた。何という事でしょう。

「い、いやそんな事ないよ!誤魔化そうとかそんな…」
、目泳いでる泳いでる」

ぐ、と言葉に詰まると、フレンがぷっと吹きだして笑った。
笑ったと思ったら彼はそのペンダントを自分の首につけて。

「でも折角のからのプレゼントだし。ありがとう大切にするよ」

罪悪感って、まさにこういう気分なんだろうな、と今ならすごく頷ける。それはもうとても。
フレンの笑顔に少々ひきつった笑みを浮かべれば正午を知らせる鐘が街に響いた。

「あ、僕もうそろそろ行かないと」

その鐘の音を聞いてフレンがじゃあ、と挨拶をして私に背を向けて歩き出す。
じゃあ私もそろそろと軽く挨拶をして再び帰路に着こうとフレンから視線を外す。
が、その外した視線を身体ごと180度回転させてフレンを呼び止めた。

「フレン!」
「?」
「あとしばらく会えないだろうから今のうちに言っておく!行ってらっしゃい!頑張ってね!」

そう言ってバイバイの意味も込めて手を振れば、フレンは少しだけ驚いたように目を丸くして、
その後少しだけ苦笑の色を混ぜたような笑みでこちらに手を振りかえしてきた。

「ああ、行ってくるよ」




02.休日の昼下がり






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長編は大体原作沿い。どうやって知り合った等の過去話は短編として書いていけたら。
20110922