「坊ちゃま!いつまで寝てるんですか坊ちゃま!!」
グランヴィル家はこの帝都ザーフィアスにおいて貴族の中で1、2を争う程の権力や財力を持ち合わせた、そりゃもう誰からも一目置かれてるような家だ。
早くに旦那様を亡くし、女手一つでやりくりをするフェリス奥様。そしてその奥様と旦那様のご子息アルス坊ちゃま。
私、・
は恐れ多くもその坊ちゃまの家庭教師としてここ数年グランヴィル家にお仕えしていたりする。
「うー…あと5分くらい…」
「駄目ですって!坊ちゃまそう言っていつも30分とか40分寝るじゃないですか!」
ふわふわの布団をかぶり直した坊ちゃまから、力尽くで布団を剥ぎ取る。
これで他の家なら無礼者!とか言われるのだろうけど、あいにくここは勝手知ったるグランヴィル家。そのくらい出入りしているし、
第一奥様にウインク付きで『起きなかったら問答無用で起こしちゃいなさい』と許可も得ている。不作法とか無礼とかんなもん知ったことか。
剥ぎ取った拍子に坊ちゃまがベッドから落ちたがこれも知ったことか。
「せんせー痛い…」
「起きない坊ちゃまが悪いんです!ほらほら!今日は忙しいんですってば!!着替えて着替えて!」
眠たそうに目を擦る坊ちゃまを放っておいて、衣装ダンスから今日の服を彼の方向にぽいぽい放り投げる。
家庭教師というよりメイドの気分だけど、まあいつものことなのであまり気にも止めない。
私がグランヴィル家にお仕えすることになったのは本当に奇跡としか言えない。
1:(後に分かったことだけれど)異世界にどうやら飛ばされた
2:目が覚めたらグランヴィル家の庭だった
3:奥様に見つかる
4:なぜか気に入られて坊ちゃまの家庭教師として働くことに
なぜ3→4となったのか全くと言っていいほど分からないのだけど、
奥様に『勘がねー働いちゃったのよー』と何とも間延びする声で答えをもらったのは今でも鮮明に覚えている。解せぬとはまさにこのこと。
…いや、うん、はぐらかされてる気もしないでもないけど。
「奥様!坊ちゃまお連れしました!」
着替えを終えた坊ちゃまを半ば抱える形でリビングへと連れて行く。
そこにいるのはもう準備万端なグランヴィル家の当主。
「ありがとう、。ほらアルスしゃんとしなさいな」
そう言って自分の息子の頬をむにむにと抓る。
奥様、坊ちゃまが何か痛そうに声あげてますけど無視ですかもしかして怒ってますか。
今日は忙しいというのは奥様と坊ちゃま、お二人だけの話だ。
貴族ながらにしてギルドとも交友の多いグランヴィル家。
詳細は聞いていないが今日は風の噂だと幸福の市場とちょっとした商談があるとかないとか。
坊ちゃまを連れて行くのは跡取りとして色んな事を知ってほしいからなのだろう。
「じゃあ行ってくるわね」
「先生行ってくるー…」
坊ちゃまいい加減しゃんとしてください、という言葉を飲み込み、
お二人の言葉に屋敷に同じく仕えているメイドさん達と共に、いってらっしゃいませと頭を下げる。
お二人を乗せた馬車が遠ざかるのを確認して腕を伸ばした。
坊ちゃまもいない、奥様もいない。いや、お仕えしてる事が嫌なわけでは断じてない。
楽しいし、今の自分があるのはお二人のおかげ。これからも出来る限りお仕えしたいと思っている。
思っているけど。
「休みだー!!!!!」
久々の休日に喜ばずにいられるかって言う話だ。
01.家庭教師の休日
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オリジナルキャラ2人の名前は固定です。ごめんなさい
20110922