「ハンター試験?、ライセンス持ってなかったっけ?」
「うん持ってない」
目の前のパソコンをいじりながら投げられた質問に答える。
投げてきたのはこのパソコンの持ち主。新しくメモリを手に入れたと連絡を入れれば、増強してくれと依頼がきたのだ。
持ち主…シャルことシャルナークは意外に声を上げた。
「いきなり何でまた」
「いやーまあ…何となく?持ってたとしても何のデメリットもなさそうだし、試験がどんなのなのか気になるし」
「…後者が大きな理由だろ」
「あれ、ばれた」
手にしているドライバーで最後のネジを締める。
出来た、とその一式を箱に詰め、衝撃を受けないように梱包材をさらにその箱に詰める。
そしてカウンターの向こうでコーヒーを飲んでいたシャルに持っていけば、大層嬉しそうな顔でそれを受け取った。
「サンキュー、!」
「いえいえ。御代はきっちりいただくからね」
「分かってる分かってる」
シャルと知り合ったのはルシルフルさん経由だ。蜘蛛の一員として、私は情報屋として。
少し話をすると、どうやら所謂彼はパソコンオタクだということが分かった(以前に彼にオタクと言ったら怒られた)。
何だとちょっと話しようぜ、と私もあまり人の事を言えない程度にパソコンオタクだったわけで誘ってみたら意気投合。
…いや、違う。この世界に来る前はオタクでも何でもなかったんだ。訂正しておく。
前いた世界はそれこそタッチパネルだとかうっすいパソコンとか、それこそ近未来的な世界だったんだ。この世界よりは数段。
そう、この世界に来て、住むところも決まって、やっと一息つけるとなった状況でまず困ったのは電子機器関連だった。
少なくとも、私のいた世界よりも20…いや30年近く遅れているであろう技術。戦慄したのは言うまでもない。
もしかして20年近く前にタイムスリップもしてしまったのか?と思ってしまったが、それについては確認のしようがないので仕方ないとして。
元いた世界での生活に慣れていた私が、動作の思いパソコンや分厚い携帯電話に耐えれるはずもなく。
過去に仕事でパソコンを作らされた際の知識を総動員して、自作することにしたのだ。
…で、この世界で集められるだけの部品を集めて、せめて少しでも動作をよくしようと試行錯誤する内に立派なパソコンオタクに…なってしまったわけで。
ここ数年でそれなりな動作のパソコンは作れるようになった自信はある。
シャルがちょくちょくメンテやら新品を作れやら依頼してくるのはその証拠だ。
「で、ハンター試験?本当に行くの?」
「ん?行くのっていうかもう申し込んじゃったんだけど…」
「え……マジ?」
「マジ」
何だ何だ、何か問題あるのか?と困ったような表情を浮かべるシャルを見て首を傾げる。
「いや…うん…まあなら逃げ切れる…か?」
「何、歯切れの悪い」
「ああ、ごめんごめん。いやさ、ちょっと厄介な人間が試験受けるって話を聞いたからさ」
「厄介?」
「うん。まあ一言で言うと……団長のストーカー?」
「なにそれこわい」
ルシルフルさんをストーキングするってどんなだ。度胸あるにも程があるだろ。
しかし、確かにそれは厄介だけど、それが私とどう関係してるんだろう、と再度首を傾げる。
「そいつ強い奴が好きなんだよ」
「……ああ…」
納得した。いや、私が滅法強いと自負しているわけではないが、この“力”はこの世界じゃ恐らく唯一無二だ。
目を付けられたら厄介という事か。何せルシルフルさんのストーカー。あの人が困ってるレベルじゃ私の手になぞ負えるわけがない。
しかも男との事。ストーカーとか言うからてっきり女だと思ったのに。
「目立たないように…頑張ります」
「そうしてくれると助かる」
お互いにため息。
「何でそんなストーカーとか飼ってるのよルシルフルさん…」
「飼っ………、一応そいつも蜘蛛なんだよね」
「…何で誰でもホイホイ入団させちゃうのあんたのとこは」
自分のストーカーを自分の傍に置くとかなんだ、あの人ドMなのか。
全く重い愛です事、と淹れたばかりのコーヒーを飲みながら呟けば気持ち悪いと返された。そりゃそうか。
「まあとにかく気を付ければいいわけね」
「うん。念を使えるだけで目を付けられるだろうけど…、念に関してはてんで駄目だしなぁ」
「ほっとけ。絶が出来るんだから何も問題ないでしょ」
「それで何も問題なくなるのがおかしいよ、どんな力使ってんのさ」
「それはトップシークレットという事で」
「またそれだ」
「またそれだよ」
誰が喋るもんですか、とコーヒーを啜れば、シャルが肩を竦める。
「じゃあ忠告は俺したから。これパソコン分の金」
「まいどー」
恐らく金が入ってるであろう麻袋をこちらに投げてきたのでそれを片手で受け取る。
それを見て、パソコンが入ってそれなりに重い箱を軽々と持ち上げてシャルが立ち上がった。
そのまま帰るのかと、その背中を眺めていればふと立ち止まりこちらを振り返ってきた。
「あ、そーだ。言うのすっかり忘れてた」
「ん?」
「、9月頭開けといて」
「9月?…………まさかオークション?」
「お、察しがいい」
詳細は試験終わったら多分団長が来ると思うからその時に、と。
オークション。そこらのオークションとは訳が違う。
ヨークシンドリームオークション。
大貴族やら何やらがこぞって集う、世界最大の大競り市、だ。
「…私客で行きたかったんだけど」
「残念。俺らを手伝ってもらうから」
「わかったわかった…ったく…それなりに楽しみにしてたのに」
ちょっと興味があっただけに少し残念だ。
ため息を吐くも、断る素振りを見せない私にシャルが笑みを深める。
「じゃ、そーいう事だからよろしくな」
「はーい。承りましたー…」
手を振りながら今度こそ店を出ていくシャルを見届けて再度ため息。
「ああもう…今年のオークションは大荒れ確定か…」
誰もいなくなった店で私は残りのコーヒーを一気に呷った。
00.はじまり
Next...
ヒソカとはまだ面識ない状態
20111125